書評③滝口俊子著『夢との対話 心理分析の現場』

夢研究

今回ご紹介するのは、滝口俊子著『夢との対話 心理分析の現場』(2014年、トランスビュー)です。

著者の滝口俊子氏は1940年生まれ。立教大学大学院文学研究科(心理学専攻)を修了後、立教女学院短期大学教授、京都文教大学教授、放送大学教授などを歴任されました。臨床心理士として心理臨床にも携わってこられた方です(本書著者紹介より)。本書は、心理臨床家として活動してきた著者が、20年以上にわたりユング派心理学者・河合隼雄氏から教育分析を受けた経験を赤裸々に語ったものです。

私がこの本を手に取ったのは、『夢との対話―心理分析の現場―』というタイトルに惹かれたからでした。夢を吉凶判断の道具ではなく、深層心理を映す鏡としてとらえる心理学的アプローチに私は関心を持っています。特に、日本にユング心理学を紹介した河合隼雄氏がどのように夢を解釈していたのかに興味があり、この本を読むことにしました。

ちなみに「教育分析」とは、精神分析家や心理療法家が、自ら精神分析や心理療法を体験することを指します(本書20頁)。

本書は大きく6章で構成され、第1章では初回の分析体験、第6章では河合隼雄氏の逝去について語られており、全体で170頁ほどの分量です。

ここで、本書を読んで感じたことを3点述べたいと思います。

1点目は、当初の目的――河合隼雄氏が教育分析の場でどのように夢を分析するかを知る――という点では期待外れであったことです。
著者が見た夢は60以上紹介されていますが、それらに対して河合氏が具体的にどのように解釈したかが記されている場面は、ほとんどありません。本書55頁には「夢について、先生が解釈されることも多かった」とありますが、具体的な内容には触れられていません。その後、「先生は次第に夢の解釈をほとんどされなくなり…」(同頁)、「夢を解釈するのではなく、『夢を生きる』ことを実践するようになられた」(56頁)と述べられています。
したがって、夢の具体的な解釈例を知りたい人にとっては、この本は正直あまり有益ではないでしょう。

2点目は、夢の解釈例こそ得られなかったものの、夢そのものの具体例を知るには有用である点です。特に本書では、著者の現実生活の状況とともに夢が紹介されており、現実と夢との関連性を垣間見ることができます。

3点目は、「教育分析」というものの雰囲気を知る上では価値があった点です。心理学を独自に学ぶ中で私自身が河合氏に関心を持っていたため、その人となりや臨床の姿勢を感じ取ることができて良かったと思います。

まとめると、本書は夢の解釈例を求める人には適していませんが、現実生活に即した夢の事例を知りたい人や、河合隼雄氏の心理療法に関心のある人にとっては有益な一冊だといえるでしょう。

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