今回ご紹介するのは河合隼雄著『ユング心理学入門』(1967年、培風館)のうちの第7章「夢分析」です。
著者の河合隼雄氏は1928年兵庫県篠山市生まれ。2007年逝去。臨床心理学者であり、京都大学名誉教授でもありました。2002年~2007年1月までは文化庁長官も務められました。
スイスのユング研究所で日本人として初めて、ユング派分析家の資格を取得。その後、国際箱庭学会や日本臨床心理士会の設立等、国内外におけるユング分析心理学の理解と実践に貢献されました。
『昔話と日本人の心』や『明恵 夢を生きる』、『中空構造日本の深層』、『とりかへばや 男と女』、『ナバホへの旅 たましいの風景』、『神話と日本人の心』、『ケルト巡り』、『大人の友情』など著作や論文は多数あります。
本書は日本におけるユング心理学の第一人者である河合氏が、昭和41年に京大文学部で「分析心理学入門」として講義したことを骨子として、ユング心理学を分かりやすく紹介した入門書です。本記事ではこの書籍の中の第7章「夢分析」に絞って内容や読んだ感想等を紹介します。
夢に興味を持って、ユングやフロイトのことを知ったけれども、2人の夢分析の違いを知りたい、ユングの夢分析について分かりやすく説明したものが読みたい方向けの記事となっています。
文の構成について
本章は大きく5節で構成されています。「1 夢の意義」「2 夢の機能」「3 夢の構造」「4 夢分析の実際」「5 死と再生のモチーフ」。参照文献が挙げられたページも含めて50頁の分量です。「4 夢分析の実際」以外のところでも、夢の具体例とその分析が数多く語られています。
また、「1 夢の意義」の前の部分では、本章でもっぱらユングの立場から、心理療法の場面と関連した点において、夢の心理的な側面について述べることを明らかにしています。
1 夢の意義
ここではまずフロイトとユングの姿勢の違いについて述べられています。
夢が心理的に重要な意義をもつことを最初に明示したのがフロイトであること、そしてフロイトが治療の場面で「夢分析」から「自由連想法」を重視するようになったのに対し、ユングがあくまでも夢を重視し、夢に対する研究を発展させていったことを述べています。
そして、次に同一の人物の異なる夢を引き合いに出して、夢を分析しています。そのうえで、どれだけ夢が私たちの生活に対して大きな意義をもっているかを示してくれています。
私が特に記憶に残ったのは「意識と無意識の相互作用の結果として夢が建設的な役割を持つ」というフレーズです。また、外的な刺激などは夢の形成にあたって1つの条件となっていてもこれが夢のすべてを決定するものではないこと、ユング心理学は夢を見るひとの心の状態に注目する、という点に心が動かされました。
2 夢の機能
ここでは、ユングの著書を参考としつつも、筆者の考えを入れて夢の機能を6つに分類しています。例えば「単純な補償」や「展望的な夢」、「逆補償」などです。それぞれの意味と、それに該当する夢の具体例が丁寧に挙げられており、分かりやすいです。
そして、ここでもフロイトとユングの立場の違いが説明されています。逆補償に関して、「尊敬する現実の父親が夢の中では酔っ払い、危険運転で車を壊し、青年がる」という夢を題材に挙げ、
フロイト流の解釈では、表面は円満に見える親子関係の裏において、この青年は、父親をこの夢にあるように馬鹿げた存在であると思いたい抑圧された願望をもち、この夢はその隠された願望充足を示しているということになると指摘し、
逆にユングはともかく現在、この青年の意識の態度として父親とよい関係にある事実はまず尊重しなければならない、そして「なぜこのような夢を見たのか」と考えるよりも、「いったい何のためにこのような夢を見たのか」を考えてみることが大切だと主張するのです。
そして、この項目は、夢の機能は相互にからみ合い、複雑なものであることが指摘されて終わります。
3 夢の構造
ここでは最初にユングが一般に夢が劇的構成を持つことを重要視していること、著者が夢を劇的構成の面から考えてみることが大切であると考えていることが示されています。
そして、夢の構造という観点で重要なことを2つ挙げます。
1つは、夢においては夢を見る人が劇作家であり、演出家であり、出演者であると同時に観客でさえある点。
もう1つは、夢の中には典型的なモチーフが生じる点です。
4 夢分析の実際
ここでは夢分析の際に、必要なことがいくつか挙げられています。例えば夢を見た人の意識の状態や、夢の個々の内容についての、その人の連想。
そして、その連想についてもフロイトとユングとでは微妙に差異があることもここで指摘されています。私がこの本を読んで自分なりに理解してのイメージは、フロイトの連想は矢印型、ユングの連想は波紋型です。
さらに、夢を分析するに際し、分析家と被分析者との相互作用によって夢分析が行われること、「主体水準」と「客体水準」の2つの意味があることにも触れられています。
5 死と再生のモチーフ
最後の5節では、夢分析において重要なものである「死と再生のモチーフ」について語られています。
最初に著者は、夢における内的な死が、必ずしも否定的とばかりは言えないことを指摘しています。死は否定的な面を持つことはもちろんだけれど、再生へとつながっていく限りは肯定的な面も持っている、というのです。
そして、この肯定的な面を持つ死の夢を見るときには、深い感動を持って体験されることが多く、この感動がいわゆる「ヌミノース体験」に相応することが述べられています。本節の後半はこのヌミノース体験とユングの宗教に対する考え方が述べられています。
まとめと感想
ユングの著作は、以前読みかけたことがあるものの、難解で言っている意味が分からなくて全部を読むのを断念した経験があります。しかし、この河合隼雄氏の『ユング心理学入門』は分かりやすいと思いました。
特に本記事で紹介した「7 夢分析」の章は、夢分析の実際が豊富な夢の事例とともに紹介されており、心理療法としての夢分析をイメージするのにとても役に立ちました。
自分が見た夢の意味を深く考えてみたい人にとっては、お勧めの1冊ということができるでしょう。
  
  
  
  
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